「ろくでもない人間がいる。お前である」!『短篇七芒星』舞城 王太郎 (ネタバレ・感想)

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舞城王太郎『短編七芒星』のレビューですレビュー
短篇七芒星""

唯一無二の作家、舞城王太郎!
なにがなにやらわからない、なのにめちゃくちゃおもしろいという、意味不明な力を持つ小説家です。
最近はアニメの脚本や構成も手掛けていますね。

『短篇七芒星』はもともと、アニメ「ID:INVADED」の再放送にあわせて、スピンアウトとしてTwitter上で発表されていた作品をリライトしたもの。
アニメを知らなくても楽しめます (わたしもアニメは見ていません)。

今回は『短篇七芒星』の基本情報やネタバレなしのあらすじ、読後に読んで欲しいネタバレありレビューです。

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基本情報

舞城王太郎さんは2001年、『煙か土か食い物』で第19回メフィスト賞を受賞してデビューしました。
また、2003年には『阿修羅ガール』で第16回三島由紀夫賞を受賞しています。

そのほか、『短篇七芒星』の基本情報は以下のとおりです。

作者

舞城 王太郎

出版社

講談社

出版年月

2022年6月

ページ数

256ページ

価格

1,760円

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一口感想

いったい彼の頭は、どうなってるんだろう?
とにかくおすすめ。
まずは読んでみて、としか言いようがありません。
ドはまりするか、全然響かないか。
あなたはどちらですか? 

わたしは大好きです!!!

あらすじ (ネタバレなし)

雨が嫌いな名探偵、(ほぼ) 百発百中の命中率を誇る狙撃手、引っ越して来た日の夜から珍事が続くマンション、石と過ごす男の子、ろくでなしのお前、兄の彼女との散歩、花瓶から水を汲みだす豚。

「なんだそれ?」が「なんだこれ?!」に続いていく、舞城王太郎ワールド全開の短編集です。

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レビュー (ネタバレあり)

それぞれの短編は独立した作品で、ミステリあり、ホラーあり、家族の愛情物語ありと、満足度の高い一冊。
「ID:INVADED」とも直接的なつながりはないそうです。

舞城王太郎は『煙か土か食い物』から読んでいる作家です。
全部は追い切れていませんが、『スクールアタック・シンドローム』『好き好き大好き超愛してる』あたりは読んだはず。
いずれも一言で感想を述べるのが難しい作品ですが、その根底にあるのは「愛」のような気がします。
違うかも。
とにかく型にはまらない、唯一無二の人なのです。

わたしは文章が整っていない作家はどれだけストーリーがうまくても入り込めないタイプなんですが、舞城王太郎に関しては破壊力が強すぎて、それどころではなくなります。
洗練された文章では決してないはずなのに、リズム感や言葉の選び方は明らかに意識してそうしている卓越さで、「なんかすごいものを読んだぞ」という気分にさせられる。

本当に、何者なんだ?

以下、各話の感想です。

奏雨

SAWか! と思わずつぶやきました。
そうか。
「奏雨」で「そう」と読むようです。
そうなんですね。

殺人事件のトリックとしてはトンデモ感がありますが、空想と連想の話や奏雨自身の話とからめて説得力を持って読ませました。
「ほかの短編と比べると、普通の話だったかもしれない」と思わせるくらいには落ち着いています。

狙撃

消えた弾丸はどこへ行った? という話。
悪人の心臓から見つかるというのは奇跡のようですが、マークスマンの受け止め方がいいですね。
「どうでもいいんだ」っていう。

軍隊でいじめにあうシーンで、こちらが本気になった途端、相手が5分で除隊届を出したところは笑いました。
早いな!

落下

ドーン! ですよ。
ドーン。
怖い!

飛び降り自殺があった翌日から、同じ時間に響く落下音。
そしてマンション内で目撃される謎の黒い影。
どう考えてもホラーの展開ですが、父親のとぼけた感じと母親の対応の温かさで緩和される感じです。
いや、怖いんだけども。

謎解きも、ミステリとホラーが入り混じったような結論に落ち着きます。
っていうか父親、突然仕事でき過ぎだろう!

雷撃

積乱雲と呼ばれる女の子から始まって、不思議な石との決別を試みる男の子で終わります。
だって、そうなんだもの!

男の子のあとをついてくる石とは何者なのか、なんの意思があったのかは最後まで明らかになりません。
見ている間は移動しない、という制約を利用して、ビデオで録画し続けることで石から離れることに成功した男の子。
読みようによっては、石を挟んだ三角関係にシービーが勝利した話、とも言えるのでしょうか。

石ではなく人間との付き合いを選んだ、男の子の成長物語だったのかもしれません。

代替

ろくでもない人間がいる。お前である。
くだらないことに執着して他人に迷惑をかける人間がいる。これもお前である。
何を触っても誰と関わっても、腐敗と不幸をもたらす人間がいる。まさしくお前である。
マジでびびるほどだ。

『短篇七芒星』p.158

そんなに言わなくてもいいじゃん! というほどのパンチ力。
攻撃力!
この冒頭を目にして、わたしはこの本の購入を決めました。

「お前」というのは読者のことではないとすぐに明らかになるのですが、ファーストインパクトが (いい意味で) 強すぎる!

ストーリーとしては、ろくでなしが本懐を遂げて死に至るまで…なのかな?
本当に「お前」はとんでもない奴なんですが、読み終わった後には「お前もお前なりに生きて死んだのだなあ」という気分にさせられますね。

春嵐

ストリームという名の犬を探しに、兄の彼女と歩く話。
いや、そこにたどり着くまでには彼女の父親の元カノとの騒動とか、弟君とかお兄ちゃんとかいろいろあるんですが。

っていうか、お兄ちゃん頑丈過ぎる。
精神が。

これも、人に説明するのが難しいストーリー。
読後感は本作1の爽やかさです。

縁起

豚ですよ、豚。

正体不明の神様のような悪魔のような化け物のような豚に狙われる弟を救うために、父が男気を見せる話。
そして母は恥骨を粉砕骨折します。
なんで?

あ、父もなんかすごい怪我します。
説明できない!

この話にも聡明で芯の強い母親と、とぼけた父親が出てきますね。

まとめ

言葉にならないのが、舞城王太郎ワールドの力。
破壊力。
エログロ要素がないぶん、本作はわりと一般受けしそう…かも?

未体験の方はぜひ、一度お試しあれ!