犯人を告発すると死ぬ!『十戒』夕木 春央(ネタバレ・感想)

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『十戒』 (夕木春央) のレビューレビュー
十戒

『方舟』で一躍ミステリ界の時の人となった夕木さん。
その続編となる本作も、発売前から大きな話題となりました。

しかし期待度の高さの割に……。
二作目は難しい、というのは本当ですね。

今回は『十戒』の基本情報やネタバレなしのあらすじ、読後に読んで欲しいネタバレありレビューです。

『方舟』のレビューはこちら!

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基本情報

『絞首商會』でデビューした夕木さん。
メフィスト賞作家ですね。

前作の『方舟』は「週刊文春ミステリーベスト10」や「MRC大賞2022」に選ばれるなど、大ヒットしました。
そのほか、『十戒』の基本情報は以下のとおりです。

作者

夕木 春央

出版社

講談社

出版年月

2023年8月

ページ数

304ページ

価格

1,815円

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一口感想

『方舟』の続編、ということで、同様の読後感やどんでん返しの妙を期待した読者は多いでしょう。
「前作はこうだったから、きっと……」という予想の立て方をした人もいるはず (わたしです)。

結果としては、それがあだになったのでしょうか。
書き手も読み手もそれに引きずられ過ぎて、空回りしたような気がします。
作者と編集者の「売り方」も垣間見えるようですね。

あらすじ (ネタバレなし)

伯父の遺した島をリゾート化する計画が持ち上がり、その下見のために枝内島を訪れた里英。
不動産屋や建設会社の関係者を含めた9人は、そこで大量の爆弾を発見します。
通報をためらっているうちに関係者の1人が殺害され、犯人からは1枚のメモが残されました。

そこに記された「十戒」を守らなければ、爆弾が爆破されて全員死ぬ――。

「犯人を見つけてはいけない」ミステリ。
キーワードは、「生き延びたい」!

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レビュー (ネタバレあり)

おもしろくなかった。
おもしろくなかった! (2回目)

一周まわってよくあるオチ、よくあるネタに転がった感。
「『方舟』みたいな方向性で行こう!」と考え、「十戒」というテーマからトリックをひねり出した結果、空虚な小説ができあがったみたいな……。
完成度としては低くないけれど、『方舟』級のインパクトを期待するとがっかりする作品です。

まず、肝心の「綾川 (麻衣) が犯人」という展開に意外性がない。
「あ、はい。ですよね」って感じ。
ちょっとミステリに慣れている人なら、最初の朝の「眠れなかった」「彼女に聞こうと思ったことがあった」の描写で、「あ、あの人がなんかしたんですね」と気づく。
その後の展開も、彼女が犯人でなければ都合が良すぎるし。
遺体発見前から犯人の目星がついた状態で、あとはまあ、無理な状況設定とお決まりの展開を読ませられると言う、飛ばし読み必須の1冊となってしまいました。
前作は、そこからのどんでん返しが「ヤラレタ!」だったわけですが。

さらに、展開がつらい。
爆弾魔から逃れて「生き残る」ことが目的なら、「十戒」なんて用意する必要ないでしょう。
1人目を殺した時点でゴムボートを隠し、ほかの2人が秘密裏に島から逃げられないようにしたうえで「いますぐ全員で島を出ろ」とメモを残せばいいだけです。
すでに起爆装置は、「彼女」の手にあるんですから。
朝になり、誰かが死体とメモを発見した後で島を脱出し、海上で起爆装置を押せば、犯行の証拠もなくなります。
テロリストが生き残っちゃう?
それ、「彼女」に関係あります??

なんにせよ、十戒ありきの発想が足を引っ張りますね。
本格ミステリのステレオタイプをなぞりつつ、それを最高に吹っ飛んだ形でひっくり返すのが前作の醍醐味だったわけですが、今回は完全にスベってました。

いえ、ワクワクしたポイントはいくつもあったんですよ。
石と貝殻の「神託」は、犯人以外の誰かが「ノー」の偽神託を出して混乱することになるんだろうな、とか。
「犯人を探したら、爆弾が爆発する」はずなのに犯人捜しをした人物だけが殺害されたのは、十戒を破ることを恐れる「信者」と化した第三者の暴走なんだろうな、とか。
主人公たちの来訪前から島に潜んでいた (爆弾製造に関わる) 無関係の誰かが犯人で、逃亡時間を稼ぐために十戒を残したんだろうな、とか。
真犯人はもう島にいないのに、自分が助かるために十戒を守ろうとするあまり、無意味な殺人が続いたことに対する善悪の揺らぎが見所になるわけですね! とか。

なにも起きませんでしたね。
がっかり。

余談ですが、ミステリで「十戒」と言えば思い出すのはノックスの十戒。
近代のミステリでは、「これをいかに破る (乗り越える) か」も大きなテーマのひとつになっています。

前作がミステリのお約束を逆手にとった傑作だったので、もしかしてこれも……と思いましたが、そうでもなかったですね。
7項、「探偵が犯人であってはならない」くらいでしょうか。
読者側が「勝手に好きになって勝手にがっかりする」をやらかしたのも、本作がつまらないと感じた要因かもしれません。

まとめ             

単体で読めば、読後感はそれほど悪くありません。
ちょっと癖があるな、と思うくらいでしょうか。
次回作に期待と言いたいところですが、本作が「次回作」なんだよなあ。

傑作の次は (いろんな意味で) 難しいというのが、よくわかる事例でした。

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レビュー
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